新しい生物学から生まれた治療法

病気は分子で説明できる…分子標的医薬の発展

最近の生物学では、病気の分子レベルでの研究が進められていて、病気のメカニズムが細胞や分子の異常な働きによって引き起こされることで解明されています。
こうした分子レベルでの研究の結果、生物学から生まれた新たな治療法が「分子標的治療」です。
病気の原因になっている分子の働きを抑制しようとするもので、副作用の少ない効果的な治療法として期待されています。

コレステロールを下げる薬剤の場合
例えば、コレステロールを下げる薬剤の場合、コレステロールをつくる過程の酵素の中で最も中心的な酵素を阻害する薬剤を探す方法があります。実際、この酵素の阻害剤はコレステロールを低下させる作用があり、メバロチンという名で三共から市販され、現在、世界中で使われる薬になっています。ただし、このように理論通りで現実に市販される薬になることは稀なケースです。
ガンに効く薬剤の場合
ガンの場合も20年くらい前から多くのガンの原因になる遺伝子が見いだされ、その作用を抑える工夫がなされました。私たちも、初期には(1990年ごろ)ガン遺伝子の中でも重要なものに注目し、その作用であるチロシンキナーゼの阻害剤を探していました。私たちの見つけた、または分子デザインした阻害剤は薬にならなかったのですが、改良に改良を重ねたノバルティス社の阻害剤グリベックは現在、慢性骨髄性白血病の特効薬として代表的な分子標的医薬として知られています。

ガンに限らず、リウマチ、動脈硬化などの炎症疾患や糖尿病なども、いずれかの組織や細胞のシグナル伝達の異常で説明できるようになってきました。そこで、私たちはこれらの病気の重要そうなシグナル伝達分子を抑える化学物質を天然から探しています。もし、とりあげたシグナルが本当にその病気に重要なもので、それを選択的に抑制できれば、この化学物質は分子標的医薬として、副作用の少ない医薬になるはずです。

本当に役に立つ分子標的医薬を見つけるために、一番、重要なのは、真に病気の進展に関わるシグナルを選ぶことだと思います。そのシグナルを選ぶのに最も有利な立場にあるのは研究者より臨床の先生方でしょう。

細胞内シグナル伝達